人間達の文明の礎となる街を築いた原初の精霊
街に物語 を吹き込んだ、精霊の眷属たる始まりの竜
その存在は人間達の背を支えるものであり、先を行く指標であり、苛烈に降り注ぐ試練である。

憧れを司る春の風の竜。ホーニスの守護竜。
穏やかで人懐っこい。いつも優しく微笑んでいて、老若男女に好かれ親しまれている。
竜態は、枝や蔦に覆われた泰然たる巨躯に、しっかりと大地を踏みしめる3対6本の足。爬虫類を思わせる細かい浅葱色の鱗に覆われている。背中の真ん中から躯の中程にかけて大きな亀裂があり、昏い体内に赤々と脈打つ光の塊が見え隠れしている。翡翠色の瞳、頭部には「F」の形をした2本の角、背中には葉を落とした大木のような翼が2つ。本気を出せば背の大木に美しい花を満開に咲かせ、それを羽ばたかせて空を飛ぶことが出来る。しかしそれをすると旋風が吹き荒れ、周りの木々も生き物もただでは済まされない為、環境が荒れることを好まない彼はあまりやろうとしない。
人間態は緑髪緑目の若い青年の姿を取る。頭には角、両腕に茶色い蔦が巻きついている。読書が好きで、竜堂で古い本を読んでいる姿がよく見られる。近くに本屋を構える夫婦とも仲がよく、頻繁に読書談義に花を咲かせている。
半ば無意識の内に風を呼び集めており、ホーニスに常に風が吹いているのはこの為である。また、竜態、人間態共に、体に巻きついている蔦は植物ではなく、純粋に彼の体の一部。
「憧れっていうのはね、純粋で、それでいてとても強い力を持っている。見ている何もかもを塗り替えて輝かせる、そんな力を持っているんだ」

継承を司る夏の歌の竜。イルマイトの守護竜。
明朗闊達、無邪気でエネルギッシュ。
竜態は、首長竜のような流線型の体躯、手足は無く巨大な胸びれと尾ひれ、背びれを持つ。魚のような、光を繊細に反射する天色の鱗に覆われ、ひれは純白で透き通り、全面に精緻な凹凸がある。瞳は銀色、無色透明の水流を羽衣のように纏い、体をしならせ空を泳ぐように飛ぶ様は「空流るる清河」と詠われる。
人間態は青髪青目の少女の姿を取る。竜態時の姿を思わせる長いポニーテールに、こちらでも流水の羽衣を纏っている。
歌舞音曲を愛し、自らも歌を得意とする。美しく色彩豊かな歌声は人々からも愛され、彼女が気まぐれで始めた「メテオコンサート」は不定期開催にも関わらず、音楽堂の体裁を取る竜堂は毎回ほぼ満員になる。
「歌う人も、奏でる人も、踊る人も、みんな音楽の力を信じているの。音楽には色んな力がある──変える力、支える力、伝える力、数え切れないくらい! そんな力を信じているから歌うし、奏でるし、踊るし、伝えて行くの。信じることは伝えて行くこと、伝えて行くことは信じることだから」

知識を司る秋の書の竜。フォンタナの守護竜。
微笑みながら文字を書き、静かに泣きながら書の頁を繰る。唆し仄めかし、何があろうと決して真意を語らない。
竜態は、骨に乾いた皮革が貼り付くばかりの枯れた大木を思わせる体躯に、ボロ切れのような大きな1対2枚の翼。体のあちこちに、羊皮紙か布のような細長いなにかが巻きついてたなびいている。頭部の殆どは巨大な黄色い眼球が占めており、黒い瞳孔が細長く刻まれたそれは見るものを先ず畏怖で拘束する。大きな後足には鋭い鉤爪を持ち、細い前足は5本指で人の手の形をしている。
人間態は茶髪の妙齢の女の姿を取る。目は殆ど眠っているように閉じているが、開くと瞳は茶色。時折竜態の時と同様に単眼になることもある。薄手の衣服から露出した腕や脚や背中に仰々しいタトゥーをしている。
「『貝の世界』に、四つ足の獣が闊歩する陸地は含まれるのか。『ハエの世界』に、銀鱗煌めく流線型の生き物が悠々と泳ぐ水底は存在するのか。精霊が築き人間が暮らす文明は、花か毒かで言ったらどちらなのでしょう。あなたの『世界の果て』は、ここから数えて何歩先にあるのでしょう。私に教えて頂戴?」

二面性を司る冬の星の竜。キョウロウの守護竜。
高潔にして低俗。寡黙にして雄弁。
竜態は、霧か霞を縒り合わせた長縄のような不思議な体躯。普段は淡く銀色に煌めいている。瞳や手足は無く、首と胴の中程と尾の辺りに、天球儀を平たくしたような形の光輪を持つ。基本的にはこの姿形で知られるが、時には四肢を生やして大地を踏みしめたり、瞳のような形の光を灯して人間と相対したり、少しずつ形を変えることがある。
人間態は男性態と女性態の2つが存在する。共通して膝に達する程の長い銀髪を光輪で緩く束ねていて、男性態は切れ長の赤い瞳、女性態は円らな青い瞳を持つ。
男性態は寡黙でかつ冷徹。街の秩序を乱す者に対して容赦無く制裁を下すことで恐れられている。また、この姿の時は必ず吹雪になる為、「冷たき竜鎚」とも呼ばれている。
女性態は朗らかで天真爛漫。人との対話を好み、この姿の時は必ず晴天になることもあって「冬晴れさん」と呼ばれ、取り分け子供達に親しまれている。
甘いものが好物であることでも知られ、竜堂には月に一度街の職人が腕を振るったお菓子が納められる。受け取りにやって来る時は必ず女性態で現れる為、一部の者からは女性態は「照れ隠しの姿」とも呼ばれている。
「……人は、生きるが故に死する」
「人は、死が待っているからこそ、強く生きるんだよ」
街に
その存在は人間達の背を支えるものであり、先を行く指標であり、苛烈に降り注ぐ試練である。
むかしむかし そしていまも このせかいは
いくつもの「じげん」が つみかさなって できています
▼
その いちばんしたに すむ 「おわりの りゅう」は
むげんだい とも いわれる ちからを もっていながら
「じげん」の つみかさなりを ながめておりました
▼
あるとき「りゅう」は つみかさなりの そのなかの
ひとつの 「じげん」に こころひかれました
▼
「あのばしょに いろんなものを つくりたい」
そうおもった 「りゅう」は
ひとりの せいれいを よびました
▼
「りゅう」は じぶんの ちからの なかから
とりだした ひとかけらを いつつに わけて
▼
ひとつを 「げんしょの ちから」にかえて
せいれいに やどし
よっつを 「はじまりの りゅう」に かえて
せいれいに あたえました
▼
そして 「おわりの りゅう」は
「げんしょの せいれい」と 「はじまりの りゅう」を
あのばしょに おくりだしました
▼
「げんしょの せいれい」と 「はじまりの りゅう」は
まちを つくり ものがたりを やどし
「おわりの りゅう」は それをみて
たいそう たのしんだ そうです
▼
原初の精霊の眷属である4体の竜。それぞれに強大な力を持ち、人間達を守護するものとして君臨する。普段は人間達が暮らす「基層」の1つ上層にある「竜層」に居り、時々「竜堂」を介して基層に顕現する。竜態と人間態の2つの姿を持つが、どちらが真の姿ということはない。

憧れを司る春の風の竜。ホーニスの守護竜。
穏やかで人懐っこい。いつも優しく微笑んでいて、老若男女に好かれ親しまれている。
竜態は、枝や蔦に覆われた泰然たる巨躯に、しっかりと大地を踏みしめる3対6本の足。爬虫類を思わせる細かい浅葱色の鱗に覆われている。背中の真ん中から躯の中程にかけて大きな亀裂があり、昏い体内に赤々と脈打つ光の塊が見え隠れしている。翡翠色の瞳、頭部には「F」の形をした2本の角、背中には葉を落とした大木のような翼が2つ。本気を出せば背の大木に美しい花を満開に咲かせ、それを羽ばたかせて空を飛ぶことが出来る。しかしそれをすると旋風が吹き荒れ、周りの木々も生き物もただでは済まされない為、環境が荒れることを好まない彼はあまりやろうとしない。
人間態は緑髪緑目の若い青年の姿を取る。頭には角、両腕に茶色い蔦が巻きついている。読書が好きで、竜堂で古い本を読んでいる姿がよく見られる。近くに本屋を構える夫婦とも仲がよく、頻繁に読書談義に花を咲かせている。
半ば無意識の内に風を呼び集めており、ホーニスに常に風が吹いているのはこの為である。また、竜態、人間態共に、体に巻きついている蔦は植物ではなく、純粋に彼の体の一部。
「憧れっていうのはね、純粋で、それでいてとても強い力を持っている。見ている何もかもを塗り替えて輝かせる、そんな力を持っているんだ」

継承を司る夏の歌の竜。イルマイトの守護竜。
明朗闊達、無邪気でエネルギッシュ。
竜態は、首長竜のような流線型の体躯、手足は無く巨大な胸びれと尾ひれ、背びれを持つ。魚のような、光を繊細に反射する天色の鱗に覆われ、ひれは純白で透き通り、全面に精緻な凹凸がある。瞳は銀色、無色透明の水流を羽衣のように纏い、体をしならせ空を泳ぐように飛ぶ様は「空流るる清河」と詠われる。
人間態は青髪青目の少女の姿を取る。竜態時の姿を思わせる長いポニーテールに、こちらでも流水の羽衣を纏っている。
歌舞音曲を愛し、自らも歌を得意とする。美しく色彩豊かな歌声は人々からも愛され、彼女が気まぐれで始めた「メテオコンサート」は不定期開催にも関わらず、音楽堂の体裁を取る竜堂は毎回ほぼ満員になる。
「歌う人も、奏でる人も、踊る人も、みんな音楽の力を信じているの。音楽には色んな力がある──変える力、支える力、伝える力、数え切れないくらい! そんな力を信じているから歌うし、奏でるし、踊るし、伝えて行くの。信じることは伝えて行くこと、伝えて行くことは信じることだから」

知識を司る秋の書の竜。フォンタナの守護竜。
微笑みながら文字を書き、静かに泣きながら書の頁を繰る。唆し仄めかし、何があろうと決して真意を語らない。
竜態は、骨に乾いた皮革が貼り付くばかりの枯れた大木を思わせる体躯に、ボロ切れのような大きな1対2枚の翼。体のあちこちに、羊皮紙か布のような細長いなにかが巻きついてたなびいている。頭部の殆どは巨大な黄色い眼球が占めており、黒い瞳孔が細長く刻まれたそれは見るものを先ず畏怖で拘束する。大きな後足には鋭い鉤爪を持ち、細い前足は5本指で人の手の形をしている。
人間態は茶髪の妙齢の女の姿を取る。目は殆ど眠っているように閉じているが、開くと瞳は茶色。時折竜態の時と同様に単眼になることもある。薄手の衣服から露出した腕や脚や背中に仰々しいタトゥーをしている。
「『貝の世界』に、四つ足の獣が闊歩する陸地は含まれるのか。『ハエの世界』に、銀鱗煌めく流線型の生き物が悠々と泳ぐ水底は存在するのか。精霊が築き人間が暮らす文明は、花か毒かで言ったらどちらなのでしょう。あなたの『世界の果て』は、ここから数えて何歩先にあるのでしょう。私に教えて頂戴?」

二面性を司る冬の星の竜。キョウロウの守護竜。
高潔にして低俗。寡黙にして雄弁。
竜態は、霧か霞を縒り合わせた長縄のような不思議な体躯。普段は淡く銀色に煌めいている。瞳や手足は無く、首と胴の中程と尾の辺りに、天球儀を平たくしたような形の光輪を持つ。基本的にはこの姿形で知られるが、時には四肢を生やして大地を踏みしめたり、瞳のような形の光を灯して人間と相対したり、少しずつ形を変えることがある。
人間態は男性態と女性態の2つが存在する。共通して膝に達する程の長い銀髪を光輪で緩く束ねていて、男性態は切れ長の赤い瞳、女性態は円らな青い瞳を持つ。
男性態は寡黙でかつ冷徹。街の秩序を乱す者に対して容赦無く制裁を下すことで恐れられている。また、この姿の時は必ず吹雪になる為、「冷たき竜鎚」とも呼ばれている。
女性態は朗らかで天真爛漫。人との対話を好み、この姿の時は必ず晴天になることもあって「冬晴れさん」と呼ばれ、取り分け子供達に親しまれている。
甘いものが好物であることでも知られ、竜堂には月に一度街の職人が腕を振るったお菓子が納められる。受け取りにやって来る時は必ず女性態で現れる為、一部の者からは女性態は「照れ隠しの姿」とも呼ばれている。
「……人は、生きるが故に死する」
「人は、死が待っているからこそ、強く生きるんだよ」
最新コメント